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東京高等裁判所 昭和46年(ネ)1406号 判決 1972年1月31日

控訴人 藤井三郎

訴訟代理人弁護士 佐々木秀雄

被控訴人 柘植由雄

訴訟代理人弁護士 寺本勤

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し昭和五一年三月二五日かぎり別紙目録記載の建物を明渡し且つ昭和四二年一二月二九日より明渡しにいたるまで一か月金五〇〇〇円の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。」との判決(明渡し期限を即時から昭和五一年三月二五日に変更した点において請求の減縮となっているものである)ならびに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において「本件解約申入れには正当の事由があるから被控訴人は直に本件家屋を明渡すべきである。しかし、仮にそうでないとしても控訴人は昭和五一年三月二五日には現住の社宅より立退かざるをえないのであるから、その頃本件家屋を使用する必要があり、被控訴人に明渡しを求める正当事由を有することは明らかであるので同日限り明渡しを求める」と述べ、被控訴代理人において右主張を争うと述べたほか原判決事実摘示のとおりであるから引用する。

証拠関係は原判決事実摘示のとおりであるから引用する。

理由

当裁判所も左に附加するほか原判決と同様の理由により本件解約の申入れには正当の事由がなく控訴人の本訴請求は棄却すべきであると判断するので、原判決理由を引用する(但し原判決一〇枚目うら二行目に「四三年」とあるのを「四二年」と、同一一枚目おもて九行目に「如」とあるのを「問」と訂正する)。

控訴人は従来即時明渡しを求めていたところ、当審において将来の明渡しのみを求めることとし請求を減縮した。そこでいわゆる正当事由による明渡請求において将来の給付として明渡しを求めうるか否かを考える。

借家法一条の二に基づく明渡請求においては、解約申入れの有効か否か(正当事由があるか否か)により明渡請求権の存否が判断されるのである。したがっておそくも事実審の口頭弁論終結時までに解約申入れがなされていることを要することはいうまでもない。そして、解約申入れより六ヶ月を経て明渡請求権が発生する(同法第三条)のであるから、結局、右口頭弁論終結時より六ヶ月先の範囲内において将来の給付としての明渡しを求めうるにとどまり、これを超えて、将来正当事由が発生することを予想し且つ解約申入れすることを予想した将来の明渡しを求めえないことは自明というべきである。ただ、前記範囲での将来の給付の訴が許されるほか、現在明渡請求権があるが、いわゆる申立事項(民訴法一八六条)としては、現在の給付を求めず将来の給付を求めるにとどめることもできるのでその意味での将来の給付としての明渡請求も許されると解せられる。

したがって控訴人の本訴請求は、右許される意味での将来の給付請求と解せられる。そして、その場合、将来における控訴人の本件家屋の必要性も、また将来の給付のみを求めている事実も、いずれも、すでになされ且つ現在なされている解約申入れ(当審口頭弁論終結時まで解約申入れは続いている)に正当事由があるか否かを判断するに際して斟酌すべき事実であるところ、控訴人が昭和五一年三月頃現住の社員寮より立退かねばならず(原判決理由2(1)5で認定)、そのためその頃控訴人の本件家屋についての必要度が高まること、また将来の明渡ししか求められていないため被控訴人には移転のための準備その他に便宜の与えられていることはいずれも認められるのであるが、これらの事情を考慮に入れても、原判決理由認定の被控訴人の諸事情と対比するとなお現在の解約申入れに正当事由があるとは認めがたい。

よって現在の解約申入れに正当事由があることを前提とする控訴人の請求はその余の判断をまつまでもなく失当として棄却すべきである。

よって本件控訴を棄却し訴訟費用につき民訴法九五条、八九条により主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 谷口茂栄 裁判官 田尾桃二 裁判官荒木大任は転任のため署名押印することができない。裁判長裁判官 谷口茂栄)

<以下省略>

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